「それなら知っていますよ!」
そう言いたがる人がなんと多いことでしょうか。ただ、それがどの段階の「知っている」なのかについては、自覚しておいた方がいいでしょう。
「知っている」の6段階
例えば、生成AIツールの操作について、講義を受けたとしましょう。それを見た人は、そんなツールが存在し、このようなことができるのかと、その事実を「知る」ことになります。
「手間のかかっていたことが、一瞬にしてできてしまう」ことで「驚く」人が大半ですが、中には、「そんなツールなど使わなくても、いままでのやり方で十分だ」とか、「どうせウソも多いので使いものにはならないでしょ」と興味を持たない人もいます。中には、「ネットでも紹介されているので、そんなこと知っていたよ」と言う人もいます。いずれにしても、驚きもしない人たちがいます。
さて、驚いただけで終わってしまうこともありますが、驚いたことをきっかけに興味を持ち「調べる」人たちもいます。ただ、調べるだけで、「知ったつもり」になっている人も少なくありません。調べてみて、試しに使ってみようという人になるとさらに数が少なくなります。
使ってみることで、人間は身体で「感じる」ことができます。これを「体感する」といいます。この身体を通して、感じることで、知識と現実世界が関連付けられます。これを認知科学や意味論の用語で「記号接地(symbol grounding)」と呼びます。頭の中にある記号(Symbol:シンボル、要するに文字列/言葉)としての知識が、現実世界の意味につながる(grounding:接地している)ということです。
これは、身体を持つ人間とそうでないAIの知性の違いを説明する場合にも使われますが、これこそが、人間が「知っています!」と言えるボトムラインであるような気がします。
体感して知っても、それを自分の中に留め、まわりに「伝える」ことをしない人たちもいます。さらには、それを仕事や生活の現場で「使う・活かす」ことで、ノウハウやスキルを磨き、仕事の成果や生活の改善に役立てる人も出てきます。こうやって体験的知識を得ることができれば、初めて人前で「こうすればいいですよ!」と自信を持って伝えることができます。
体験的知識があれば、関連する想定外の疑問や質問がぶつけられても、あるいは、新しい状況に遭遇しても、容易に対処できます。それは、体験から得た感覚が知識と結びついているからです。そのため未知の事象と容易に関連付けることができます。俗に言う「勘(かん)が働く」ということです。
このような体験的知識を積み重ねることで、様々な未知の事象にも対処できる能力を獲得できれば、多くの人から信頼を得ることができるでしょう。
「体感する」が「知っています!」と自信を持って言える最低限
このチャートのパーセンテージは感覚的なもので、客観的なデータの裏付けはありませんが、おおよそ、こんな感じではないでしょうか。最後の”5%”は、もしかしたら”2%”くらいが妥当かも知れませんが、最初の100%から見れば、ほんのわずかであることにかわりはありません。
全てに於いて、この5%(または2%)を目指す必要はないにしても、自分の専門とする領域であれば、ここを目指すべきでしょう。あるいは、その領域に於いて、可能な限り広範に「体感する」段階に達しておくべきだと思います。
私は、「体感する」が、人前で「知っています!」と自信を持って言える最低限ではないかと思います。もちろん、それより下の段階でも「知っている」ことには間違えはありませんが、少しは控えめにした方が良いように思います。それは、「記号接地」できていない知識であり、言葉だけで体験から得られた感覚や感情が伴わないからです。どうしても薄っぺらで、迫力なく、説得力がありません。このようなことでは、「専門家」や「プロ」と言うには、はばかられます。
ただ、残念ながら、「知る」や「驚く」の段階に留まり、自分で調べることも、体感することもなく、大声で「知っています!」と言いたがる人もいます。もちろん、薄っぺらであっても知っていることは事実で、間違っているわけではありません。ただ、その意図は、自分の「薄っぺら」をごまかすためであったり、プライドを保ちたいからであったりします。「いまさら知らないなんてかっこ悪い」や「まわりには”知っている”という態度をとっているので、示しがつかなくなる」といったところでしょうか。
そのような意図はすぐに見抜かれてしまい、まわりの信頼を損ねてしまいます。なによりも、より上位の「知っています!」に至る道を自ら閉ざしてしまいます。見方を変えれば、自らの成長の足を引っ張ることにもなるのです。
企業にも当てはまる「知っている」の6段階
さて、この「知っている」の6段階は、個人だけではなく、企業にも当てはまるかも知れません。例えば、ITベンダーやSI事業者のホームページをみれば、「お客様のDXの実践をお手伝いします!」と喧伝しています。しかし、その内実をみれば、自らのDXもままならない企業もあるようです。
例えば、次のような企業です。
- クラウドへの移行を促しながら、自らはまだオンブレミスに大半を頼っている企業
- コンサル営業を目指すと宣言しているのに自社の製品やサービスの販売、単金×工数を営業のノルマと課す企業
- 自社の製品やサービスの導入がDXの実践であるかのごとく「なんちゃらDX(人事DX、物流DXなど)」を売り込む企業
- クラウドを売り込みながら運用やシステム開発をウォーターフーォール開発で請け負うことを営業目標に掲げる企業
- クラウドやDevOpsの大切さを訴求するもコンテナやサーバーレスを扱えず、アジャイル開発もまともにできない企業 など
物品やライセンス、工数を収益の源泉に位置付けることから、圧倒的な技術力を武器に内製化支援や誰もが一目置く独自サービスによる収益への転換が、かれらのDXであろうかと思います。
本来、DXとは、次のように解釈されています。
- データとデジタル技術を活用して、
- 顧客や社会のニーズを的確に捉え、
- 自社の競争優位を確立すること。
そのために、次の変革を行う。
- 商材やビジネスモデル
- 業務の仕組み
- 企業の文化や風土
このような取り組みを自ら実践し、その体験から得られた知識やノウハウを、模範を通じてお客様に提供することこそが、「お客様のDXの実践をお手伝いします!」といえる段階ではないでしょうか。まさに、ここに示した6段階の頂点です。
ここに至る努力もせずに、下位の3段階に留まっていれば、上述の通り、薄っぺらで、迫力なく、説得力がありません。
人間であれ、企業であれ、自分が語る「知っている」の段階を自覚しておいた方がいいでしょう。それが、相手との信頼関係の土台となるように思います。
使える知識を身につけるために!
次期・ITソリューション塾・第47期(2024年10月9日 開講)
次期・ITソリューション塾・第47期(2024年10月9日[水]開講)の募集を始めました。
特別補講の講師が決まりました。
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企業文化の変革に挑む富士通の取り組み
〜フジトラの実践を通じて見えてきたITビジネスのあるべき姿と課題〜
特別講師:富士通株式会社 執行役員常務 CIO(兼)CDXO補佐 福田 譲 氏
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富士通は、いま「フジトラ(富士通トランスフォーメーション)」に取り組んでいます。フジトラは、ビジネス・モデルや業務プロセスの変革に留まらず、企業文化の変革にも踏み込んだ、会社を作り変えようという取り組みです。道半ばとはいえ、確実に成果が現れつつある一方で、様々な課題にも直面しています。そんなフジトラの実践をリードする福田譲氏に、フジトラの”いま”を”正直に”ご紹介頂きます。
DXの実践に取り組む多くの企業にとって、大変参考になると思います。
次のような皆さんには、きっとお役に立つはずです。
- SI事業者/ITベンダー企業にお勤めの皆さん
- ユーザー企業でIT活用やデジタル戦略に関わる皆さん
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- デジタル人材/DX人材の育成に関わられる皆さん
ITに関わる仕事をしている人たちは、いま起こりつつある変化の背景にあるテクノロジーを正しく理解し、自分たちのビジネスに、あるいは、お客様への提案に、活かす方法を見つけなくてはなりません。
ITソリューション塾は、そんなITの最新トレンドを体系的に分かりやすくお伝えするとともに、ビジネスとの関係やこれからの戦略を解説し、どのように実践につなげればいいのかを考えます。
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※神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO(やまと)会員の皆さんは、参加費が無料となります。申し込みに際しましては、その旨、通信欄にご記入ください。
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- 時間:毎週(水曜日*原則*) 18:30〜20:30 の2時間
- 方法:オンライン(Zoom)
- 費用:90,000円(税込み 99,000円)
- 内容:
- デジタルがもたらす社会の変化とDXの本質
- IT利用のあり方を変えるクラウド・コンピューティング
- これからのビジネス基盤となるIoTと5G
- 人間との新たな役割分担を模索するAI
- おさえておきたい注目のテクノロジー
- 変化に俊敏に対処するための開発と運用
- アジャイルの実践とアジャイルワーク
- クラウド/DevOps戦略の実践
- 経営のためのセキュリティの基礎と本質
- 総括・これからのITビジネス戦略
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- 企業文化の変革に挑む富士通の取り組み〜フジトラの実践を通じて見えてきたITビジネスのあるべき姿と課題〜
神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO
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6月22日・販売開始!【図解】これ1枚でわかる最新ITトレンド・改訂第5版
生成AIを使えば、業務の効率爆上がり?
このソフトウェアを導入すれば、DXができる?
・・・そんな都合のいい「魔法の杖」はありません。
これからは、「ITリテラシーが必要だ!」と言われても、どうやって身につければいいのでしょうか。
「DXに取り組め!」と言われても、これまでだってデジタル化やIT化に取り組んできたのに、何が違うのかわからなければ、取り組みようがありません。
「生成AIで業務の効率化を進めよう!」と言われても、”生成AI”で何ですか、なにができるのかもよく分かりません。
こんな自分の憂いを何とかしなければと、焦っている方も多いはずです。