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下請けSI事業者のための3つのポスト工数戦略

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SI事業者の工数ビジネスの需要拡大は、もはや見通せない状況となりました。その背景にあるのは、生成AIを活かした開発支援ツールの登場による開発生産性の大幅な向上とクラウド・サービスの充実によるITシステム実現の方法の変化です。

このような状況に呼応し、ユーザー企業は、この変化を積極的に活かして内製化の拡大を図り、外部への工数依存を減らす意欲を高めています。

元請となる大手SI事業者は、この状況に対処すべく自分たちのスキル・ポートフォリオを見直し、生成AIとクラウドの活用を前提に、ユーザー企業の内製化支援に舵を切り始めています。また、サービス事業の拡充を図り、サービス・プロバイダーとしての収益拡大を図りつつあります。

一方で、大手SI事業者の下請けとして工数需要の受け皿となっていた企業は、工数需要の減少は避けられません。その前段として、下請け事業者は、専門性や技術力のあるところに絞りこまれ、選別されることになるでしょう。”普通”の工数に需要の伸びは、今後は期待することはできません。

生成AIを活かした開発支援ツール

GitHub Copilot Workspaceなどの生成AIを使っての使った開発支援ツールは、人間が書いたIssue(何をしたいかの説明)を入力すれば、Copilotが仕様を書き、実装計画を提案し、これに沿ってコードを生成、あるいは、既存のコードの修正を行います。これをビルドしてエラーがあれば修正してくれます。プログラム・コーディングのほとんど全ての工程を自動的に実行してくれます。

ただ、人間は各工程でCopilotから示される内容を確認し、必要に応じて修正する必要があります。その意味で、エンジニアの役割がなくなることはありません。ただ、プログラム開発の生産性は大幅に向上します。

江戸時代は、東京から大阪へ徒歩で15日間ほどかけて移動していたそうです。明治になって鉄道が開通し、移動時間は20時間に短縮されました。昭和になって特急列車が走るようになり8時間に、新幹線が開通して3時間となり、いまは2.5時間まで短縮されています。リニア新幹線なら1時間程度になるとされています。

これと同じ話で、同じ結果を得る上でのボトムラインはどんどんと引き上げられるわけで、プログラミングに期待される生産性の基準も大幅に引き上げられます。結果として、単金の基準も変わってしまうはずです。

それよりも何よりも、生産性が大幅に上がるのであれば、人海戦術で沢山の人を集めて開発する必要はありません。ユーザーが週人数で同様の開発ができます。つまり、ビジネスの現場に近い人材が、現場との対話をすすめながらシステムを開発することが容易になります。変化への迅速な対応が求められるいま、ユーザー企業は、このようなシステム開発ツールを使うことを前提に、内製への舵を切るはずです。クラウドの充実はこの動きに拍車を掛けています。

ただ、このようなツールを使いこなすには、課題もあります。それは、プログラミングやシステム開発についての高度専門的な知識やスキルが必要なことです。その能力が高い人ほど、大きな成果をあげられます。その理由は次の通りです。

正確な要求の定義と指示

生成AIツールに正確なコードを生成させるには、開発者が意図した通りの動作を実現するために必要な要件を明確に理解し、正確に指示する必要があります。これには、プログラミングの基本概念や技術に関する専門知識が必要です。

また、生成AIに対する要求は、あいまいさを排除し、可能な限り具体的でなくてはなりませんが、そのためには、問題の本質を理解し、それを技術的な要件に落とし込むスキルが必要です。

生成されたコードの評価と修正

AIによって生成されたコードは、必ずしも最適だとは限りません。生成されたコードの品質を評価し、必要に応じて修正や最適化を行うためには、高度なプログラミング・スキルや経験に培われた直感が必要です。また、コードのバグや不具合は、生成AIツールで解決できるところもありますが完全ではなく、エンジニアのデバッグについての理解と経験が求められます。

インテグレーションとカスタマイズ

AIによって生成されたコードを既存のシステムやプロジェクトに統合するには、システム・アーキテクチャやデータ・フローに関する知識が必要です。これがなければ、システム全体を機能的・効率的に動作させることはできません。

また、生成AIツールの背後にある技術や制約を理解することで、より効果的にこれらのツールを使いこなすことができます。また、どの生成AIツールを使用するか、どのようにしてプロジェクトのライフサイクルに組み込むかという戦略的な決定を下すためには、システム開発に関する包括的な知識が必要です。

このようにAIを開発で使えば、コード生成やドキュメンテーション、情報収集などの知的力仕事の生産性は大幅に向上します。その分、開発者は、ユーザーとの対話や業務の観察を通じて的確な目的、課題を設定することや、開発や運用のスピードを加速し、同時に安定したシステムを実現できるシステム・アーキテクチャーの設計などの高次な知的作業に、より多くの時間を割くことができるようになります。

さらに上位のシステム開発の目的、つまり、自分たちの「あるべき姿」を定め、そこに至る課題や、なぜこの課題を解決しなくてはならないのかを明確にすることは、人間にしかできません。また、現状から「あるべき姿」に至る物語である戦略の策定でも、必要となる情報収集や整理、ドキュメンテーションといった知的力仕事はAIの助けを得ることはできますが、中身を作ることは人間にしかできません。実践のためのステップである戦術についても、選択肢のアイデアをAIに求めることはできますが、決定できるのは人間だけです。

生成AIツールへの期待は高まりますが、それを使いこなせる人材は限られています。だからこそ、このような人材を提供しユーザー企業の内製を支援する、あるいはスキルを提供する需要は、ますます旺盛であり、ここにこそ新たなビジネスの活路が見いだせるのではないかと考えられます。

クラウド・サービスの充実とクラウド前提の開発

運用に関わる負担を軽減し、最新機能を利用でき、高度なセキュリティを担保できるという理由から、「クラウド前提」でシステムを実装することは常識となりました。SaaSやサーバーレス、開発生産性ツールの充実もまた、工数需要の減少をもたらします。

ユーザーが求めているのは、売上や利益などの業績を改善、向上させることです。情報システムは、その手段であることは言うまでもありません。しかし、その手段を手に入れるために、多大なコストと時間をかけて開発しなくてはなりませんでした。しかし、クラウドの登場により、開発の負担は大幅に減りつつあります。

例えば、SAP社のパッケージ製品(S/4HANAなど)は、いまその多くがクラウド・サービス(SaaS)を用いて利用されるようになりました。開発や運用の負担が大幅に減少するからです。その際、標準機能では提供されていない要件に対処する際には「追加開発(アドオン)」をする必要があります。

この追加開発は、従来はSAPのパッケージ製品と同じ実行基盤で実施していましたが、それとは別基盤(主にはSAP Business Technology Platform(BTP))に移し、APIによる疎結合によって連携しようという「Side by Side開発」が普及しつつあります。これにより、SAP製品の標準機能と追加開発機能が「疎結合」となり、SAPのパッケージ製品の実行基盤上での制約(言語や機能)が取り払われるため、従来であれば、ABAP開発だったものがBTPでは、JavaやJavaScriptでの開発ができるようになり、その自由度が高まります。

また、SAP製品対応したクラウドはサービス充実させており、それらをクラウド間でAPI連係して使う選択肢も増えています。

このように構築や運用の負担は減少し、特定製品に特化した専門性は排除され、豊富なクラウド・サービスを組み合わせることで、ユーザーが求めるサービスを実現できるケースが増えています。このトレンドは、SAPだけではなく、その他の場合でも同様の傾向は拡がりつつあります。

これまでのような「クラウドは使ってもカスタマイズ開発の需要は残る」との考え方は縮小します。ユーザーが手段として必要とするITシステムを、工数を掛けることなく容易に手に入れることができる時代になりつつあるわけです。

このような変化の潮流を理解してクラウドへの対応力を持つことが求められています。

これからの戦略

上記のトレンドから分かるとおり、「下請け×工数需要」の需要拡大を期待することは困難です。それに対処するために、次の3つの取り組みを考えてはどうでしょうか。

1つは、エンジニアの高度化です。要求された仕様書通りにシステムを開発することから、ジステム開発の上流工程やシステム・アーキテクチャに関わることができるエンジニアを増やしていくことが大切です。今後、生成AIを利用した開発ツールが普及すれば、そんなエンジニアの需要は拡大します。つまり、「生成AI×エンジニア」を新たなパッケージとして提供することです。このような人材は、ユーザー企業も求めている人材であり、下請けではなく直接ユーザー企業とも取引できる人材を増やすことになるはずです。

ふたつ目は、クラウドを使いこなせる人材です。もちろんAWSやAzureなどのサービスは前提ですが、クラウドの充実でシステム開発の考え方が変わります。それを踏まえた提案ができ、お客様の内製化を支援できることは大きな需要を生みだすはずです。

3つ目はアジャイル開発やDevOpsを前提にすることです。AI、クラウド、内製化の文脈は、アジャイル開発やDevOpsと同じ文脈です。上記2つを活かす前提でもあります。

具体的な取り組み方については、別の機会に考えてみようと思います。ただ、いずれにして、この3つの取り組みは、今後の戦略を進める土台となるはずです。

また、これとは別に独自のITサービスを提供してサービス・プロバイダーとして新たな収益を確保しようとの考えもあるでしょう。そんな取り組みには、上記3つの取り組みが活きてくるはずです。つまり、上記取り組みを自前のサービス構築を実現する過程で実践し、スキルを身につけるというのも1つのやり方です。

なお、このようなサービスは、地元、あるいはニッチといった特定領域に特化し、自分たちにしかできない圧倒的な得意を活かす必要があるかと思います。

「広く、あまねく、誰もが使える」は、体力勝負になりかねません。地の利を活かし、専門性を活かせることに特化し、確実に少数の顧客を確保して、その成功を足掛かりに顧客の裾野を拡げていくことが現実解でしょう。

「下請け×工数需要」から「直接取引×技術力」へと収益構造を変えていくことが必要です。ここに示した3つの取り組みは、そのための土台となるはずです。

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