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ChatGPTを使ったことがある人が1/3という現実をもっと危機感を持って捉えて欲しい

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「ChatGPTなどの生成AIを使ったことがある方は、手を挙げてください。」

60名ほどの受講者が参加した「ITトレンドとビジネス戦略」の講義の冒頭でこんな質問してみました。手を挙げたのは20名ほどでした。これがユーザー企業の講義であれば、「まあ、そんなものか」と言うこともできそうですが、これが中堅のSI事業者の方達ですから、「ほんとですか?」と、つい本音が口をついて出てしまいました。ChatGPTが登場して1年以上も経つのに、いまだこのようなことで、本当に丈夫なのでしょうか?余計なお世話ではありますが、とても心配になります。

そんな受講者に使わない理由を尋ねたところ、次のような答えが返ってきました。

「セキュリティ上の懸念があるから」

「会社のシステムからは使えないから」

「仕事に必要がないから」・・・

多くのSI事業者がそうであるように、この会社も例に漏れず「お客様のDXに貢献する」という類のメッセージを経営方針に掲げています。社内でもDX推進組織が立ち上げられ、自社の事業変革に取り組んでいます。しかし、現場の現実はこの有様です。華々しい看板とは裏腹に、世間の常識から一歩身を退(ひ)く人たちが大勢を占めていることに、もっと危機感を持つべきかも知れません。

これを個人の自助努力の足りなさに帰するのは、違うような気がします。

  • 新しいことに興味を持ってはいけない
  • 少しでもリスクのありそうなことに手を出していけない
  • 仕事に直接関係のないことに時間を使ってはいけない

そんな企業文化が、この現実を生みだしているのかも知れません。

日本のSIビジネスは、このような企業文化があればこそ、成長できたとも言えます。自分たちから新しいことを提案するよりも、お客様のご要望に粛々と応え、徹底してリスクを回避することで、少ない利益を取りこぼすことがないようにして、工数を膨らませることが、事業目的となっていたからです。

技術的な差別化よりも、低い利益率に甘んじてでも既存顧客との継続的な関係を保つことで稼働率を維持することを優先してきました。ですから、稼働率を下げ、しかもリスクが伴う新技術や新規事業への取り組みは、直ちに原価割れにつながりますから避けなくてはなりません。

そんなわけですから、ボリュームゾーンである既存技術を磨き、これに対応できる要員を増やすことが、収益の拡大や事業の維持に直結するわけですから当然のことです。

もちろん新技術や新規事業に無関心だったわけではありません。ただ、それは、お客様の要望に応えるためにすぎません。新しい市場を生みだすとか、既存の人月ビジネスと決別し、会社を新しく作り変えるためではありません。

DXの本質がここにあるにもかかわらず、お客様のDXについて大見得を切っているのに、自分たちは紺屋の白袴でしかないわけです。

幸いにも、ITの需要が衰えることはなかったので、このやり方は、成功の方程式でもありました。しかし、この方程式もそろそろ使えなくなりそうです。

いまはまだ生成AIを使ってのシステム開発は、そのサービスやノウハウが発展途上であること、加えてユーザー企業の中での開発や運用の実務経験が乏しく、いまの新しい常識にキャッチアップできていないことから、ユーザ企業とSI事業者との関係が直ちに変わるとは思えません。しかし、コード生成やドキュメンテーションは、生成AIが最も力を発揮できる領域の1つで、生産性は劇的に向上します。システム開発を代替するクラウド・サービスの充実と相まって、さほど時間を待たずして、SI事業者の収益の源泉であった工数需要を圧迫することは間違いないでしょう。

知的力仕事が大幅に減り、システム技術的な難しさも軽減されることから、ユーザー企業は、少数精鋭の内製チームを社内に持ち、SI事業者に仕事を頼む必要はなくなります。

このような現実があるにもかかわらず、冒頭のような生成AIを使ったことがない人たちが多数を占める企業が、果たして、お客様のDXや自社の変革で成果をあげることができるのでしょうか。

セキュリティやコンプライアンスという言い訳で、新しいことを先送りする文化が染みついてしまった企業や組織のままでは、変化の速いいまの時代を乗り越えることは、相当に難しいでしょう。

「自発的に学ぼうとする人が少なくて困っています。どうすればいいでしょうか。」

こんなご相談をうけることがあるのですが、これも上記のような文化ならばこそです。自ら学ぶ必要がないし、学ぶ動機が与えられていないのですから、これを巧みな言葉や充実した研修制度で解決するのはムリだと思います。

例えば、「リスキリング研修」と銘打って、新しい技術を学ぶ機会を提供している企業があります。しかし、実態は、いまの事業を変えることなく、従業員が自主的にスキルの向上や新しい技術を習得するための機会を提供しているに過ぎません。このような研修は、正しくは、「リカレント研修」です。事業構造を変革するために新しい組織を作ったから、そのために必要なスキルを学ばせ人材を確保することを目的とした「リスキリング研修」とは異なります。

「リカレント研修」は研修経費であり、「リスキリング研修」は事業投資でなくてはならないはずです。そんなことさえ曖昧なままに、流行りの今風の言葉で受講者を募ったところで、業績の改善や事業構造の転換につながる実効性は生まれないように思います。

研修の担当者(あるいは経営者)は、新しいことを学ばせたら、危機感が芽生え、自発的に変革が進むとでも思っている節があります。それはあり得ないことです。むしろ、新しいことを学び、いまの会社とのギャップを知り、うちの会社はヤバいと悟り、モチベーションを下げる人たちが増えるかも知れません。しょせん転職者を増やしてしまうだけのことのように思います。

会社が、新事業のために用意した受け皿、つまり新組織や別会社に移るために、いまの組織から配置転換を前提に、新しい仕事で必要なスキルを学ばせるのが「リスキリング研修」であって、これは業務命令です。個人の自発的な学びへの好奇心を満たすための「リカレント研修」とは、まったく異なることです。

「自発的に学ぼうとする人が少なくて困っています。」

だからと言って強要しても本人にその気がなければ、受講者の息抜きのための研修か、研修担当者が自分たちの職務を全うするための研修にしかならず、いずれであっても業績に貢献することはないでしょう。

学びの機会は大切だと思います。しかし、それを活かせる企業文化に作り変えていくことも合わせて取り組まなければ、事業の成果に結びつきません。SI事業者が自分たちのためにとリ組むべきDXとは、そんな企業文化の変革ではないかと思います。

自分たちの現実と未来に真摯に目を向け、事業戦略と経営戦略の一環として、危機感を共有する努力をすべきかも知れません。それを言葉で伝えるのではなく、組織改革や人事異動などの見える施策で危機感を示すことが大切です。それができるのは経営者や経営幹部でしかありません。精神論を訓示するより遥かに効果的です。

このような施策なくして、冒頭のような残念を払拭することは難しいように思います。

神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO

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