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「センス」の本質は「知識力」にある

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センスとはふさわしい状態を作れる能力

「あの人の服装は、流行にこびないセンスのよさがあるよね」
「あの人の選ぶ店は、いつも間違えない。本当にセンスがあるよね」
「あの人は、いつもセンスのいい文房具を持っているなぁ」

そんなセンスのいい人がいるものです。同様に営業の現場でも、次のようなセンスのいい人を見かけることがあります。

「あの人の作った提案資料はいつもセンスがいいなぁ」
「あの人のトークは、お客様を惹き付けるセンスがあるよな」
「あの人のプレゼンのセンスには、いつも惚れ惚れするよ」

お金をかけて一流の高級ブランドの服装を身につけていても、センスがいいとは限りません。ユニクロのカジュアルな服を着ていてもセンスがいいと感じる人はいます。料理は美味しくてもセンスのない店はあります。流行の高級文房具を持っているからといって、センスがいいとは限らず、悪趣味と感じてしまうこともあります。

かっこいいイラストを駆使して資料を作れば、センスのいい資料ができるでしょうか。自分たちの製品やサービスをよどみなく説明できてもセンスがいいとは言えません。内容は申し分ないけれど、センスのないプレゼンをする人はいます。

こう考えて見ると、「センスがある」とは、「高級」、「内容がいい」、「有名」、「人気」とは、直接関係が無いようです。

では、センスの良さを感じるのは、どういう時でしょう。例えば、「そうそう、こういう話しを聞きたかった」、「まさにこれですよ」、「ぴったりですね」という感情をいだかせるところに、人はセンスを感じるのではないでしょうか。

その時々の状況にふさわしい場や物語を演出できる能力

センスの本質は、そんなところにあるのかもしれません。

例えば、営業のセンスの良さはどこに感じられるのか

  • 提案資料のセンスの良さは、中身が詰まっていることではなく、伝えたいことを的確にわかりやすく表現しているかです。
  • トークのセンスの良さは、話しの流暢さではなく、相手の興味や関心に寄り添っているかどうかです。
  • プレゼンのセンスの良さは、ビジュアルの美しさではなく、聴いている人たちの反応に合わせて、話しの展開をコントロールし、共感を引き出して、相手を話しに釘付けにすることです。

つまり、「ふさわしい状態を作れる能力」と言い換えてもいいでしょう。

そのためには、まずは、「ふさわしい状態」を知る必要があります。そのためのポイントは、「想像力」です。

想像するとは、つぎのようなことです。

  • いまの自分は、相手からどのように見られているのだろうかを想い描くこと
  • 相手の会社の状況や置かれている立場、役職を考えると、きっとこういうことに苦労しているだろうなぁ、こんなことを解決したいのだろうなぁ、と仮説を立てること
  • いまの説明に、相手は首をかしげているぞ。前提の説明を省いてしまったからだろうか、それとも難しい用語を使ったからだろうか、何が原因だろう、どうすればこの状況を変えられるだろうかと方策をシミュレーションすること

ふさわしい状態」とは、絶対ではなく、まわりの環境や相手との相対的な状態です。言葉を換えれば、まわりに対する気遣いであり、相手に対する思い遣り、つまり愛情です。まわりに嫌な思いをさせずに、ここちよく感じてもらう。さらに踏み込んで、相手を幸せにするには、どうすればいいだろう。そういうことをとことん考え物語を描き、実行できる能力がセンスであり、その能力が高い人が「センスがいい」ということになります。

センスを磨く

どうすれば、そんなセンスを磨くことができるのでしょうか。それが、本記事の主題である「知識力」を増やすことです。

例えば、「重い」か「軽い」を判断するとき、10kgまでしか持ち上げられない人にとっては、15kgも30kgも両方とも同じように「重い」と感じ、その違いを区別できません。一方、50kgまで持ち上げられる力があれば、これらの違いははっきりと分かります。

例えば、お客様から、「コスト削減のためにクラウドへ移行したい」と相談を持ちかけられたとしましょう。もし、あなたが、「クラウドとは、仮想マシンの集合体だ」という程度の知識しかなければ、「それでは、いまの御社のオンプレをクラウドの仮想マシン・サービスであるIaaSに移行しましょう」という提案しかできません。

しかし、移行作業やテストにそれなりのも費用はかかりますし、運用は従来のままとなりますから、手間やコストがかかる割には、お客様の望むコスト削減ができないばかりか、セキュリティや運用をいまに合わせる必要があり、むしろ余計なコストが増えてしまうかも知れません。

一方、上記の知識に加え、「SaaSやクラウド・ネイティブで作り変えれば、大幅にコスト削減ができる」という知識も持ち合わせていれば、「現状のシステムを精査し、SaaSに移行できるシステムをまずは選び出して、SaaSに移行しましょう。また、独自に作り込んだシステムもサーバーレスで作り変えられるところはそれに置き換え、どうしても置き換えられないものは一時的にIaaSに移行するか、あるいは、クラウドではなく、オンプレのままで塩漬けして、コンテナ/サーバーレス/マイクロサービスで作り変えるプロジェクトを立ち上げてはどうでしょう」という提案ができます。そうすれば、大幅なコスト削減だけではなく、変更への俊敏性も手に入ります。

このように、知識力があれば、お客様にとっての「ふさわしい状態」を示すことができます。つまり、「センスのいい」提案ができるということです。

広範な知識があるから、相手にとって、ふさわしいやりかたを判断でき、適切な提案の方針や戦略を描くことができます。また、専門領域に精通した深い知識があるから、ふさわしい手段を示すことができます。

お客様の興味や関心に合わせて、ふさわしい話題を提供できれば、センスがいいと感じてもらえるでしょう。そのためには、仕事に関わる知識も必要ですが、政治や経済、芸術や遊びについての知識もあるといいでしょう。お客様と共感ができるし、話が弾み、お客様の心を和ませ、仕事の話しもしやすくなるはずです。

プレゼンテーションも知識力が大切です。技術に詳しい人が相手であれば、最新の技術動向やその使い方を語ればいいし、ITは怖い、面倒だと感じている人が相手であれば、相手の業務上の苦労や不満について共感を示して、「ほら、このように解決できますよ」と説明すれば、前のめりに話しを聴いてくれるはずです。

知識力を磨くとは、沢山の選択肢を持つことです。そうしておけば、その時々の状況にふさわしい選択肢を選ぶことができます。まさに、10kgを持ち上げられる筋肉よりも、50kgを持ち上げられる筋肉を持つ方が、きめ細やかに「ふさわしい状態を作る」ことができるわけです。

センスを磨く方程式

どうすれば、センス=知識力を磨くことができるのかと言えば、それは、以下の公式で説明できます。

学びの密度×時間

「学びの密度」とは、日常の習慣に学びの機会をどれほど作れるかです。毎日、本を読む、積極的に研修や勉強会に参加する、休み時間にはSNSから流れてくる情報にアクセスし、新しい情報を収集することを心がける、といったことでしょうか。とにかく、インプットを増やすことを日常の習慣に組み込むことです。

そうして得られた「インプット知識」を、ブログに発信する、勉強会やお客様への説明資料にまとめるなどの「アウトプット知識」に転換する。その繰り返しが、学びの密度を上げることに大いに役立ちます。

「時間」とは、「続けること」と言い換えることができます。「要領よく知識力を身につけられるスタディ・ハック」というものを私は知りません。強いてあげれば、学びの密度を高められるように、毎朝1時間は「学びの時間」とし、「夜は寝る前に本を読む」というような、ルーチンを作り、それを継続することしかありません。こんなのは、ハックなんかではなく、学びの王道です。

例えば、ITをお客様に提案する営業が、人工知能と機械学習とディテープラーニングの関係が分かっていないとか、アジャイル開発とDevOpsの関係や、これを活かすにはサーバーレスやコンテナ、マイクロサービスが、大切な役割を果たすことを理解していないとすれば、「営業センス」は、発揮できません。

服装のセンスが良い人は、その類の雑誌を沢山読んでいますし、いろいろなお店にも通って、自分にふさわしい服を、沢山の選択肢から選ぶことができます。選ぶ店のセンスがいいのも、沢山の店で食事をして、失敗も含めて沢山の経験をしているからこそ、そのうちの選りすぐりのいくつかをシチュエーション合わせて選択できるのです。

文房具も、雑誌を見て、あるいは、沢山の文房具店をまわり、使ってみて失敗して、そんな沢山の経験の上澄みが、センスとなって輝いているのです。

また、物事の本質、あるいは原理原則や定番を心得ていることもセンスの大切な要素です。例えば、リーバイスの王道と言えば、501であり、この製品が生まれた歴史的背景を知っていているからこそ、自信を持って身につけることができるわけで、その物語に共鳴した人であり、そういう生き方を自分も大切にしたいと考える人だからこそ、センスを感じるわけです。

うわべだけの新しいことに引きずられることなく、大切にすべきこと、あるいは基本をしっかりと抑えることができるからこそ、新しいことも活かせるわけで、これもまた大切なセンスの要件です。

「学びの密度×時間」で、センスは磨かれます。センスとは、そんな後天的な能力なのだと思います。

「自分にはセンスがない」のではなく、「知識力=学びの密度×時間」が不足しているだけのことです。そういう現実を真摯に受け入れることが、「センス」を磨くための第一歩と言えるでしょう。

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