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IT企業の頼りなさがユーザー企業の内製を加速させる:お客様のDXよりまずは自分たちのDXを!

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私は、最新のITトレンドやビジネス戦略についての講義や講演を年間100回程度こなしています。従来は、受講者はITベンダーやSI事業者(以下IT企業)が圧倒的だったのですが、コロナ禍以降、ユーザー企業からのご依頼が増えています。

かつてユーザー企業は、「ITは難しい、分からない」から「専門家に任せておけばいい」という考えが当たり前でした。残念ながら、いまもこの考えは根強くありますが、「もうそんなことはいっていられない」「IT前提で自分たちの事業を作り変えなければ、競争力を失ってしまう」という意識も高まりつつあります。そんな空気の中で、ユーザー企業がシステムの内製を加速しています。あきらかに空気が変わり始めています。

ならば、そんなこれからの取り組みもIT企業に頼ればいいと思うのですが、そうなってはいません。その背景にあるのは、「IT企業の頼りなさ」ではないのでしょうか。

ユーザー企業は、劇的に変わり続けるビジネス環境に即応できなくてはならないと考えています。これに対処するには、自分たちで即決・即断し直ちに実行できる能力を持ちたいと思っています。一方、IT企業は、個々の要望ごとに体制を確保し個別見積と交渉で仕事を進めたいと思っています。仕事を進める基準となる時間感覚が違っているのです。

ユーザー企業は、ビジネス目的に合わせた最新技術を使いたいと思っています。一方、IT企業は、ボリュームゾーンの枯れた技術を前提に、リスクを回避しつつ確実に人月を稼げる仕事を請けたいと思っています。テクノロージーを競争力生みだす武器と捉えるのか、自社が収益を維持するための手段と捉えるのかの違いです。

ユーザー企業は、自分たちの業務知識を活かした最適技術を使いたいと思っています。一方、IT企業は、仕様書に従ってシステムを作ることにリソースを傾けてきたため、総じて業務知識に乏しく技術の選択肢が限られています。新し技術かどうかに関係なく事業に必要な要素であると捉えるのか、リスクを避けて確実に収益を確保するための要素であると捉えるかの違いです。

ユーザー企業は、ITを前提に最適化されたビジネス・モデルの実現や業務プロセスを変革したいとの思いを強くしている一方で、IT企業は、既存の技術やノウハウが使える工数需要やツールを導入してカスタマイズ需要を生みだしたいと考えているように見えます。そんな両者の意識の乖離が、ユーザー企業の内製化を後押ししているのではないでしょうか。

折しも生成AIやAIエージェントの急速な技術革新に支えられAI駆動開発やAIOpsもまたその実用性を高めています。また、これら技術がクラウドサービスと融合する流れも加速しており、ユーザー企業の内製化の取り組みもまた加速しています。

また、内製化は、アジャイル開発やDevOpsと不可分です。先に述べたように、ユーザー企業は、劇的に変わり続けるビジネス環境に即応し、ビジネスの成果を確実にするために最適かつ最新技術を使いたいと望んでいます。一方、IT企業がウオーターフォール開発とこれを支える開発や運用の工数提供、オンプレの物理マシンや仮想マシンの受け皿でしかないクラウドのIaaSしか扱えないとすれば、ユーザー企業は相談しようがありません。

IT企業もそんな現状を承知しているようです。例えば、内製化支援を打ち出す企業や事業変革のコンサルティングや技術支援を看板に掲げる企業も増えています。経営者は「ユーザー企業のDXの実践を支援します」と喧伝しています。しかし、どうもその実効性には疑問を持たざるを得ません。

冒頭で述べた最新のITトレンドやビジネス戦略についてのIT企業向けの講義や講演で、私は、いくつかの質問をすることがあります。例えば、先日の講義で「コンテナという言葉をご存知ですか?」と質問すると半数近くは知らないという回答でした。サーバーレスやマイクロサービスについて知らない人たちはさらに多くなります。SREについて紹介したところ運用エンジニアのマネージャーが初めて聞いたとのことでした。この企業は、決して中小企業ではありません。従業員数は一万人を超える規模の企業です。受講者は1000人ほどでした。そして、この企業もまた、ホームページには、経営者の言葉として「ユーザー企業のDXの実践を支援します」と掲げられています。

余談ですが、この企業に限らず、IT企業の従業員であっても、斜陽のIntelは知ってはいるが、隆盛を極めるArmやNVIDIAを知らない、あるいは名前は聞いたことはあるが何の会社は分からないという人も相当の数に上ります。IT企業でありながら、未だPPAP(Zip暗号化+パスワードでのファイル転送)を使い続けているにもかかわらず、ホームページには「ゼロトラスト」の大切さが語られていますところもあります。

このような現実を見ると、ユーザー企業が、そんなIT企業を頼りないと感じるのは、仕方のないことのように思います。DXを看板に掲げる企業の従業員が、このような言葉を知らずして、お客様にDXに取り組みましょうと持ちかけるというのは、なんとも滑稽な気がします。

古いエンジンでは、古い飛行機を飛ばすことしかできません。新しい時代にふさわしいテクノロジーに支えられたエンジンがなくては、最新の飛行機(DX)を飛ばすことはできないのです。

このような現実を従業員の自助努力の問題にしてしまうのは無理があるでしょう。事実、コンテナについて「半分は知らない」ということは「半分は知っている」ということです。ただ、個人の「知っている」が組織の「知っている」に変換されないことが問題なのであり、これは組織運営や経営の問題です。

知識は個人に帰属します。それを組織の知識として活かすためには、それを言葉にして、議論できる環境が不可欠です。心理的安全性のない組織では、これはできません。個人の知識が個人に埋没し、これをビジネスの実践に活かす道を閉ざしてしまうからです。そんな閉塞感から優秀な人材が流出するのは、いまやIT業界の常識となっています。

危機感を煽り、精神論で叱咤激励することも必要かも知れません。しかし、このような行為が活かされるのは、心理的安全性に支えられた相互の信頼関係や自律した個人・チームであり、多様性を尊ぶ文化、失敗を許容する組織風土が前提です。もちろん、現場のリーダーがそのために努力することは大切です。しかし、経営者は言葉ではなく、組織や体制、業績評価制度で、そのための環境をお膳立てしなくてはなりません。

こういうことを申し上げると、「簡単なことではない」という方もいらっしゃるかも知れません。そのとおり、「簡単なことではない」のですが、そうしなければ競争力を維持できないばかりか存続も危ぶまれます。この現実を直視して大手IT企業として変革に取り組み成果をあげている企業もあります。詳しくは、こちらを参考にしてください。

AIの急速な発展は、広く社会に浸透し、私たちのこれまでの常識が、様々なところでアップデートを余儀なくされています。DXとは、そんな社会の変化に俊敏に対処して競争力を維持し、高めるための取り組みです。IT企業は、お客様のDXをどうこう言う前に、先ずは自分たちのDXに向きあうことを優先すべきではないのでしょうか。

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