生成AIの急速な発展により、ビジネスや研究、教育といった多くの分野で業務の効率化が進んでいます。だからと言って、AIが万能だという訳ではありません。
大量のデータからパターンを抽出し、迅速な情報処理や定型業務の自動化が可能となる一方、AIはあくまで過去のデータや既存のアルゴリズムに基づく「ツール」であり、創造的思考、倫理的判断といった面では人間の能力に劣ります。したがって、今後も人間とAIはそれぞれの強みを生かしながら協働することで、社会全体の発展に寄与する道が現実的なアプローチと言えるでしょう。
AI時代における人間固有の役割
AIが高度なサポートを提供できるようになった現代においても、最終的な判断と行動の責任は人間にあります。人間ならではの重要な役割は、以下の通りです。
1.創造性と独創性:未知を生み出す力
AIは過去のデータに基づいたアイデア生成に優れていますが、人間の創造性は全く新しい概念や斬新な発想を生み出す能力にあります。芸術、科学、技術における革新は、既存の常識を逸脱、あるいは超越する独創性によって生まれます。
2.倫理と価値判断:複雑な文化的・社会的背景を考慮する力
倫理的判断や価値観の評価は、データ解析だけでは捉えきれない複雑な文化的・社会的背景に基づいています。AIに倫理的なガイドラインを組み込む試みも進んでいますが、最終的な判断は人間の内面的な価値観と社会規範に委ねられます。
3.責任:結果を引き受ける覚悟
AIが提示する高度な提案を実行に移す際、その結果に対する最終的な責任は判断を下す人間にあります。「AIがこのようにしなさいと言ったから私はそれに従っただけです」という説明は、いまの社会では受け入れられることはありません。AIの判断プロセスを透明化し、人間の責任範囲を明確化する仕組みが求められます。
4.共感:他者の感情を深く理解する力
他者の感情や状況を自らの身体を通じて感じ取り、共有する能力は、人間特有のものです。AIとロボティックス、センサー技術との融合や感情認識や表現方法の研究も進んでいますが、身体的な経験に基づく人間の共感を完全に模倣することは現時点では困難です。
5.戦略的意思決定とリーダーシップ:未来を切り拓く力
組織や社会の長期的なビジョンを描き、方向性を示すリーダーシップは、データだけでなく、経験、直感、洞察力に依存します。変化の激しい社会においては、未知の状況に対する決断を下さなくてはならないこともしばしばです。過去のデータに依存するAIがこの状況に対処することは困難です。また、上記の3で述べたように、判断した結果に対する責任は、全て人間にあります。その意味からも、戦略的意思決定とリーダーシップをAIに委ねることはできません。
6.AIの管理と監督:安全と倫理を確保する力
生成AIの運用においては、安全性と倫理的使用の確保が不可欠です。AIが生み出す結果の正当性を検証し、適切なリスク管理と監督を行うのは人間の役割です。
人間とAIの知性の本質的な違い:主体的な意識と体験
人間の知性の根底にあるのは、「主観的な意識と体験に基づく主体性」です。人間は、意識を持ち自己を認識することで、独自の判断基準を形成します。そこには外部環境(周囲の環境や他者との関わりなどの身体の外部)や内部環境(内臓や筋肉、内分泌系などの身体の内部)といった人間にしか持ち得ない身体を介して生みだされる感情、経験、内省があります。この能力は、データとアルゴリズムに基づくAIの機能とは一線を画します。
人間の究極の役割:責任と共感
生成AIは知的生産性の向上に大きく貢献しますが、最終的な判断と行動の責任、そして他者との情緒的な共有は、人間にしか担えない領域です。また、既存の常識から逸脱することで新たな価値を創造することもまた、人間にしかなしえないことです。これらの役割の根幹には、前節で述べたように、身体を持ち、現実世界と接して主観的な意識と体験に基づき作られる人間の知性と現実世界から抽出されたデータを処理することで機能するAIの知性との決定的な違いに基づきます。AGI(汎用人工知能)が登場し、AIの性能がいまより遥かに向上しても、この人間とAIの知性の本質的な違いが完全に解消されることはありません。
もちろん、AI技術の進展は急速であり、将来の予測は困難です。様々な可能性を考慮し、柔軟に対応していく心構えは必要です。ただ、現実を考えれば、ここに述べたような人間とAIの得意・不得意を相互に補完するかたちで協働し、仕事のパフォーマンスの向上やイノベーションの創出、社会の発展を進めていくことが大切ではないかと思います。
我が国の停滞をさらに深刻化させるかもしれないAI技術の急速な発展
「野村総合研究所が2024年8月に実施した最近の調査によると、日本人の間で生成AIの認知度と使用率に大きな差があることが明らかになった。61%の人は生成AIを知っているが、実際に使用したことがあるのはわずか9%だった。」
このようなレポートが出ていましたが、これは大変深刻な現実です。
私は仕事柄、「ITの最新トレンド」や「ビジネス戦略」についての講義をしていますが、これを実感として理解できます。多くの受講者が、「ITは難しいから」と遠ざけて、それを味方に付けようという意欲が実に低いのです。「生成AIは知ってはいるが使ってはいない」という人が大半です。
アメリカに在住するビジネス・パーソンに話しを聞けば、日常の検索はAIを使い、LINEやメッセンジャーで知り合いとやり取りする感覚で、生成AIを使いこなしている人たちも少なくありません。彼らのITに対する感性の高さに驚かされるとともに、日本の現実との間にある大きなギャップを感じます。
統計的な裏付けがないので、私の肌感覚でしかありませんが、このようなテクノロジーへの感性、あるいはテクノロジーをビジネスに取り込もうとする意欲に於いて、日米の格差は大きく、これが競争力の差となって現れているように感じます。もちろん、日本でもテクノロジーを前面に出して競争力を生みだそうとしている企業も少なくありませんが、現場の日常感覚との間には隔たりが大きく、この現実こそが、イノベーションや競争力を生みだす上で、ボディブローのように効いてきているのではないでしょうか。
AI技術の発展が加速度を増しているいま、わずかな遅れは、大きな格差となってしまいます。この事態を放置すれば、我が国の停滞をさらに深刻化させるでしょう。まずは、この現実に気付いた人が、行動を起こし、成果をあげて範を示す以外に術はないのかも知れません。
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